2024年11月、フリーランスを守るための新しい法律「フリーランス新法」が施行されました。
正式名称は「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」で、報酬の未払いや一方的な契約トラブルから個人事業主や一人法人を守ることを目的にしています。
この記事では、フリーランス新法の基礎から、発注事業者に課された7つの義務、1ヶ月以上の継続契約で禁止される7つの行為、違反時の罰則、トラブル時の相談先まで、フリーランスが知っておきたい要点をまとめて整理します。
2026年1月施行の改正下請法(取適法)との関係や、つまずきやすい論点もカバーするので、契約に不安がある方は最後まで目を通してみてください。
フリーランス新法とは(正式名称・施行日・保護対象)
まずはフリーランス新法がどんな法律なのか、基本的な枠組みを押さえておきましょう。
「自分は保護される側なのか」「どんな取引が対象になるのか」を最初に確認しておくと、後の義務や禁止行為の話が自分ごととして読めます。
正式名称・施行日・略称
フリーランス新法の正式名称は「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(令和5年法律第25号)です。
2023年5月に公布され、2024年(令和6年)11月1日に施行されました。
公的な略称は「フリーランス・事業者間取引適正化等法」ですが、メディアでは「フリーランス新法」「フリーランス保護法」と呼ばれることが一般的です。
この法律は公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省の3省庁が共管しており、それぞれの所管に応じて義務違反を監督します。
保護される「特定受託事業者」の条件
フリーランス新法で保護されるのは「特定受託事業者」と呼ばれる個人や法人です。
具体的には、業務委託を受ける側の事業者のうち、①従業員を雇っていない個人、または②代表者以外に役員がおらず従業員も雇っていない一人法人が該当します。
システムエンジニア、Webデザイナー、ライター、動画編集者、イラストレーターなどが典型例です。
加えて、配送ドライバー、美容師、ヨガインストラクター、講師など幅広い職種の個人事業主も対象に含まれます。
ここでいう「従業員」は、週20時間以上かつ31日以上の雇用見込みがある労働者を指します。
同居の親族のみを雇っている場合は、フリーランス新法上は「従業員を雇っていない」と扱われます。
自分が業務委託と雇用のどちらに近いかを整理しておきたい方は、フリーランスと業務委託は何が違う?契約・税金・新法までやさしく解説もあわせて確認してみてください。
義務を負う「特定業務委託事業者(発注事業者)」の条件
一方、フリーランスに仕事を発注する側は「業務委託事業者」と呼ばれます。
そのなかでもより重い義務を負うのが「特定業務委託事業者」で、①従業員を雇っている個人、または②2人以上の役員がいる、もしくは従業員を雇っている法人が該当します。
つまり、自分も従業員ゼロのフリーランスである相手から仕事を受けている場合、相手は「業務委託事業者」ではあっても「特定業務委託事業者」には当たらないため、義務の一部のみが適用される点に注意が必要です。
書面交付や60日以内の報酬支払いなど、本記事で紹介する主要な義務の多くは「特定業務委託事業者」に対して課されています。
下請法との違いと適用範囲の拡大
従来、企業とフリーランスの取引には「下請法(下請代金支払遅延等防止法)」が適用されてきました。
ただし、下請法は発注側の資本金が1,000万円超でないと適用されないという制約があり、スタートアップや小規模事業者からの発注では法的な後ろ盾がない状態でした。
フリーランス新法はこの資本金要件を撤廃し、従業員を雇用している事業者であれば資本金規模に関係なく対象に含むよう適用範囲を大きく広げました。
これにより、大企業からの委託だけでなく、スタートアップや個人事業主からの発注についてもルールが及ぶようになっています。
ここがポイント
- フリーランス新法は2024年11月1日施行の「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」
- 保護されるのは「特定受託事業者」=個人事業主と一人法人(従業員を雇っていない事業者)
- 義務を負うのは「特定業務委託事業者」=従業員や複数役員のいる発注事業者
- 下請法の資本金要件を取り払い、スタートアップや小規模事業者からの発注もカバー
発注事業者に課された7つの義務
フリーランス新法では、発注事業者に対して大きく7つの義務が定められています。
公正取引委員会・中小企業庁が所管する「取引適正化」と、厚生労働省が所管する「就業環境整備」の2本柱で構成されています。
各義務の中身を順番に整理していきましょう。
① 取引条件の明示(書面または電磁的方法)
発注事業者は、フリーランスに業務を委託するときに、取引条件を書面または電磁的方法で明示する義務があります。
電磁的方法にはメール・チャット・専用システム上のメッセージなどが含まれ、口頭や電話だけで条件を伝えるのはルール違反です。
明示すべき項目は、業務の内容、報酬の額、支払期日、当事者の名称、業務委託日、給付を受領する日と場所など多岐にわたります。
この義務は、発注事業者がフリーランスから「いつまでに何をいくらで」と聞かれたときに、文字として残せる形で示せるようにしておくためのものです。
もし条件が文字で示されないまま仕事が始まりそうなら、「書面(またはメール)で条件をいただけますか」と遠慮なく依頼して問題ありません。
ここに注意
- 口頭・電話のみで条件を伝える行為はフリーランス新法違反になる
- 明示が必要な項目は、業務内容・報酬額・支払期日・当事者・委託日・受領日と場所など
- 条件が曖昧なまま着手すると、後から「言った言わない」の水掛け論になりやすい
- 依頼書・発注書・メール文面は、案件ごとに専用フォルダで保管しておく
② 報酬の60日以内支払い
発注事業者は、フリーランスから給付(成果物や役務)を受領した日から60日以内のできる限り短い期間で報酬を支払う必要があります。
従来よくあった「月末締め・翌々月末払い」のように、納品から入金まで90日近く空くパターンは法律上の問題になります。
起算日はあくまで「給付を受領した日」であり、検収完了日や請求書発行日ではない点に注意が必要です。
発注事業者がさらに上流の事業者から依頼を受けて再委託している場合は、上流からの支払期日に応じた特例もありますが、原則は受領から60日以内です。
入金時期はフリーランスの生活に直結するので、契約時点で「いつ受領扱いになり、いつ振り込まれるか」を明確にしておきましょう。
③ 募集情報の的確表示
フリーランスに仕事を募集する場面では、報酬額・業務内容・契約期間などを的確に表示する義務があります。
クラウドソーシングやSNS上の募集投稿、求人サイトの掲載、自社サイトの案件募集ページなどが対象です。
「実態と異なる好条件で集めて、応募後に条件を引き下げる」「過去の案件情報を更新せず古い条件のまま掲載し続ける」といった行為は禁じられています。
応募する側としては、募集情報と実際に提示される条件が大きくズレていたら、その時点で発注事業者側の義務違反の可能性があると認識しておくと安心です。
④ 育児介護等への配慮義務(継続的業務委託)
6ヶ月以上の継続的業務委託では、発注事業者はフリーランスの育児・介護等と業務の両立に配慮する義務があります。
具体的には、子の養育や家族の介護を抱えるフリーランスから申し出があった場合に、納期・打ち合わせ時間・働く場所などについて柔軟に対応することが求められます。
6ヶ月未満の業務委託でも、同様の配慮を行うことが努力義務として定められています。
「妊娠中なので深夜帯の打ち合わせは避けたい」「介護のため当面はリモート対応にしたい」といった要望は、堂々と伝えてかまわないということになります。
⑤ ハラスメント対策の相談体制整備
特定業務委託事業者は、フリーランスに対するセクハラ・妊娠出産等ハラスメント・パワハラを防止するため、相談体制の整備などの措置を講じる義務を負います。
社内の相談窓口を設けたり、外部の相談先を案内したりすることが想定されています。
フリーランスが相談したことを理由として、契約解除や報酬減額などの不利益な扱いを行うことも禁じられています。
実際にハラスメントを受けたと感じた場合は、まず社内の窓口に相談し、対応が不十分であればフリーランス・トラブル110番や弁護士に相談する流れが基本です。
⑥ 中途解除・不更新の30日前予告と理由開示
6ヶ月以上の継続的業務委託を中途解除したり、契約を更新しないと決めた場合、発注事業者は少なくとも30日前までにフリーランスに予告する必要があります。
ある日突然「来月で契約終了です」と通告されると、家賃や生活費の計画が一気に崩れてしまいます。
30日間の予告期間があれば、次の仕事を探したり、資金繰りを見直したりする余裕が生まれます。
加えて、フリーランス側から終了理由の開示を求められたら、発注事業者は理由を説明する義務があります。
「予算の都合」とだけ伝えて済ませることはできず、合理的な説明を求められると考えておきましょう。
複数の発注先で収入を分散しておくと、こうした打ち切りリスクを和らげられます。フリーランスの案件獲得方法|単発案件から抜け出す継続案件の取り方では継続案件の取り方を整理しているので、参考にしてみてください。
⑦ 1ヶ月以上の継続契約は7つの禁止行為が適用
業務委託期間が1ヶ月以上にわたる場合は、発注事業者にとって「やってはいけない7つの行為」が適用されます。
受領拒否、報酬の減額、返品、買いたたきなど、フリーランスにとって痛手になりやすい行為が個別に禁じられています。
詳細は次の章で1つずつ整理しますが、この適用ラインは「1ヶ月以上」という点を覚えておいてください。
| 義務 | 適用される対象 | 違反時の対応 |
|---|---|---|
| ① 取引条件の明示 | 業務委託事業者すべて(特定業務委託事業者含む) | 公取・中企庁の助言→指導→勧告→命令 |
| ② 報酬60日以内支払い | 特定業務委託事業者 | 公取・中企庁の助言→指導→勧告→命令 |
| ③ 募集情報の的確表示 | 特定業務委託事業者 | 厚労省の助言→指導→勧告→命令 |
| ④ 育児介護等への配慮 | 特定業務委託事業者(6ヶ月以上は義務) | 厚労省の助言→指導→勧告→命令 |
| ⑤ ハラスメント相談体制 | 特定業務委託事業者 | 厚労省の助言→指導→勧告→命令 |
| ⑥ 中途解除30日前予告 | 特定業務委託事業者(6ヶ月以上の継続契約) | 厚労省の助言→指導→勧告→命令 |
| ⑦ 7つの禁止行為 | 特定業務委託事業者(1ヶ月以上の継続契約) | 公取・中企庁の助言→指導→勧告→命令 |
ここがポイント
- 発注事業者の義務は「取引適正化(公取・中企庁)」と「就業環境整備(厚労省)」の2系統
- 取引条件の明示は契約のすべての場面で必要(電磁的方法=メール・チャット可)
- 報酬は給付を受領した日から60日以内のできる限り短い期間で支払う
- 育介配慮・ハラスメント対策・30日前予告などは、継続的な業務委託で特に重い義務になる
1ヶ月以上の継続契約で禁止される7つの行為
1ヶ月以上の継続的な業務委託では、発注事業者に対して7つの行為が個別に禁止されます。
いずれもフリーランス側に落ち度がないにもかかわらず、不当な負担を強いる行為が対象になっています。
自分の取引に当てはまるものがないか、順番にチェックしていきましょう。
① 受領拒否
フリーランス側に落ち度がないのに、依頼した成果物の受け取りを拒否する行為は禁止されています。
発注事業者側の都合で「やはり不要になった」と一方的に受領を拒むことは認められません。
受領を拒否されたまま代金が支払われないと、納品物が宙に浮いた状態になり、フリーランスは大きな損失を被ります。
② 報酬の減額
いったん合意した報酬額を、フリーランス側に落ち度がないのに減額する行為は禁止されています。
「社内の予算が削られた」「他社の見積もりが安かった」といった発注事業者の都合での減額は、典型的なNGパターンです。
値引き要請があった場合は、書面やメールでのやり取りを残し、応じる前に「これは新法に抵触しないか」を立ち止まって考える習慣をつけましょう。
③ 返品
成果物に瑕疵がないのに返品する行為も禁止です。
一度受領した成果物を、発注事業者の都合で「やっぱり要らない」と返してくることは認められません。
瑕疵がない場合は返品されても代金請求は維持できるため、メールや納品書のコピーをきちんと残しておくことが重要です。
④ 買いたたき
同種の業務に対する通常の対価より著しく低い報酬額を、一方的に定める行為は買いたたきとして禁止されています。
「他のフリーランスは半額でやってくれる」「初回限定だから安くしてほしい」といった圧力で、市場相場を大きく下回る金額を押し付けるパターンが典型です。
自分の業務の市場相場を日頃から把握しておけば、不当な値下げ要求に対して根拠を持って交渉できます。
⑤ 購入・利用強制
発注事業者が指定する商品やサービスを、フリーランスに強制的に購入・利用させる行為は禁止です。
「弊社のツールを月額契約してください」「指定の研修を有料で受講してください」といった要請が、業務遂行に必要不可欠でないにもかかわらず一方的に課されるケースが該当します。
業務に直接関係のない購入を求められたら、断る権利があると覚えておいてください。
⑥ 不当な経済上の利益の提供要請
協賛金や金銭・役務など、契約外の経済上の利益をフリーランス側に提供させる行為も禁じられています。
「キャンペーンに協賛してほしい」「サービス開発の追加検証を無償でお願いしたい」など、報酬の範囲外の負担を一方的に求める行為が典型です。
発注事業者にとっての都合だけで、フリーランス側に追加の経済的負担を負わせることはできない、というルールです。
⑦ 不当な給付内容の変更・やり直し
フリーランス側に落ち度がないのに、業務内容を一方的に変更したり、成果物のやり直しを無償で要求したりすることも禁止です。
「やっぱりトンマナを変えたいので作り直してほしい」「仕様を変更したので最初から作り直しになります」といった指示が、当初の契約範囲を超えて無償で求められた場合は要注意です。
やり直しが必要なケースでも、追加報酬や納期延長の取り決めなしに一方的に押し付ければ、新法違反になり得ます。
ここに注意
- 7つの禁止行為はいずれも「フリーランス側に落ち度がないこと」が前提
- 減額・買いたたき・無償やり直しなど、相手都合の負担増は遠慮なくNGと認識する
- 禁止行為に該当する依頼があった場合は、メールやチャットでやり取りを残しておく
- 1ヶ月未満の単発契約には7つの禁止行為は適用されないが、明示義務などの基本ルールはかかる
ここがポイント
- 禁止行為は「①受領拒否/②減額/③返品/④買いたたき/⑤購入強制/⑥不当利益要請/⑦不当変更」の7つ
- 1ヶ月以上の継続的業務委託が対象。短期単発でも明示義務などの基本ルールは適用される
- やり取りはすべてテキストで残す。電話で済ませた場合も後追いメールで要約を送ると安心
- 自分の業務の市場相場(時給・案件単価)を把握しておくと、買いたたきへの抑止になる
違反時の罰則と監督官庁
フリーランス新法のルールが守られなかった場合、発注事業者にはどのようなペナルティが科されるのでしょうか。
行政処分の流れと、3つの監督官庁の役割分担を確認しておきましょう。
助言→指導→勧告→命令→罰金の段階
違反があった場合、いきなり罰則が科されるわけではなく、段階的な対応が取られます。
まずは行政から助言・指導が入り、それでも改善が見られない場合は勧告、さらに従わない場合は命令という流れで強度が上がっていきます。
勧告に従わない事業者については、社名が公表される可能性があります。
命令にも違反した場合や、報告徴収・立入検査を拒んだ場合には、50万円以下の罰金が科されます(フリーランス新法第24条)。
金額だけ見ると重くないように思えますが、社名公表によるレピュテーションリスクと合わせて、企業側にとっては無視できない負担になります。
公取・中企庁と厚労省の役割分担
フリーランス新法の監督は、所管事項に応じて3省庁で分担されています。
公正取引委員会と中小企業庁は「取引適正化」を所管し、書面交付義務・60日以内支払い・7つの禁止行為など、取引条件に関する違反を扱います。
厚生労働省は「就業環境整備」を所管し、募集情報の的確表示・育児介護等への配慮義務・ハラスメント対策・中途解除30日前予告など、フリーランスの働く環境に関する違反を扱います。
どこに申告すべきか迷ったら、後述する「フリーランス・トラブル110番」で相談すれば、適切な窓口に案内してもらえます。
申告したフリーランスへの不利益取扱いは禁止
フリーランスが違反事実を行政に申告したことを理由として、発注事業者が取引停止・報酬減額・契約解除などの不利益な扱いを行うことは禁じられています。
「告発したら干される」という不安が申告のハードルを上げてしまうため、新法ではこの不利益取扱いを明確に違反対象に位置付けています。
ハラスメント相談を理由とする不利益取扱いも、別途禁止されています。
申告するかどうかを迷っている場合は、まず匿名でフリーランス・トラブル110番に状況を相談してみるとよいでしょう。
施行後の運用実態と公表されている指導事例
公正取引委員会の公表資料によれば、施行後の最初の半年〜1年で、相談件数や指導件数が一定の規模に達しています。
特にゲームソフト制作、アニメ制作、リラクゼーション、フィットネスクラブなどの業界では、複数の事業者に対する集中的な指導と概要公表が行われました。
現時点では「勧告」「命令」「罰金」事例はまだ多くありませんが、指導段階での社名公表が増えていることから、発注事業者にとっても新法のリスクは現実のものになっています。
フリーランス側としては、「申告しても何も変わらない」という時代ではなくなりつつあると認識して、必要な場面では迷わず行動する姿勢が大切です。
報酬未払い・契約トラブルから自分を守る実践チェックリスト
法律が整備されたとはいえ、トラブルがゼロになるわけではありません。
最終的に自分を守るのは、日々の取引で積み重ねた小さな備えです。
ここでは、今日から取り入れられる実践的なチェックリストを整理します。
仕事を受ける前にチェックしておきたい5項目
案件を引き受ける前に、次の5つを確認してみてください。
- 業務内容と範囲(成果物の定義・担当する工程)が具体的に書かれているか
- 報酬の金額と支払期日が文字で示されているか(受領日から60日以内になっているか)
- 納品物の形式・納期・受領場所が明確か
- 修正対応の回数と範囲、追加報酬の発生条件が決まっているか
- 契約期間と中途解除・不更新時の予告ルールが記載されているか
曖昧なままスタートすると、トラブル時に「言った言わない」の水掛け論になりがちです。
違和感があったら、着手前に「念のためメールでまとめておきたい」と切り出して条件を整理しておきましょう。
取引の記録を残す具体的な方法
取引にまつわるやり取りは、後から検証できる形で残しておくのが鉄則です。
メール・Slack・チャットワーク・Teamsなど、テキストとして保存される手段でのやり取りを基本にしましょう。
どうしても電話や対面で打ち合わせをした場合は、終了後に「先ほどの内容を確認させてください」と要約をメールで送っておくと、文字での記録に変換できます。
契約書・発注書・請求書のコピー、納品データのバックアップ、過去のチャットログのエクスポートなど、案件単位でフォルダにまとめて保管するクセをつけておくと、いざというとき強い味方になります。
経理面の記録についてはフリーランスの確定申告|やり方・必要書類・青色白色の違いを1年目向けに解説もあわせて読むと、確定申告時の整理にも役立ちます。
自分用の契約書テンプレートを持っておく
発注事業者から契約書が出てこないケースは、現場では珍しくありません。
そんなときに「こちらでひな形を用意していますので、こちらを使いませんか」と提案できると、話がスムーズに進みます。
freeeやマネーフォワード、行政書士会など、無料の業務委託契約書テンプレートを配布しているサイトもあるので、自分の業種に合わせてカスタマイズしておくと安心です。
契約書は相手を縛るためではなく、お互いの認識ズレを防ぐためのツールだと考えると、提案のハードルが下がります。
自分から契約書の話を切り出すことで、「しっかりしたフリーランスだな」という印象にもつながり、結果的に長期取引へのドアが開きやすくなります。
ここがポイント
- 受注前の5項目チェック(業務範囲・報酬・納期・修正・契約期間)を習慣化する
- やり取りはテキストで残す。電話で済ませた内容も後追いメールで要約を残す
- 契約書・発注書・請求書・納品データは案件単位でフォルダ保管
- 自分用の業務委託契約書テンプレートを持ち、契約書なしの取引を減らす
トラブル時の相談先と動き方
実際に報酬未払いや契約トラブルに直面したときに、どこに相談すればよいかを把握しておきましょう。
段階に応じて使える相談窓口が複数用意されています。
フリーランス・トラブル110番(0120-532-110)
第二東京弁護士会が厚生労働省の委託を受けて運営している、フリーランス専門の無料相談窓口です。
電話番号は「0120-532-110」で、平日9時30分から16時30分まで対応しています。
電話・メール・Webビデオ通話・対面相談に対応しており、匿名相談も可能です。
報酬未払い・契約トラブル・ハラスメントなど、フリーランスが抱える幅広い問題について弁護士が無料でアドバイスをくれます。
「こんなことで相談していいのかな」と感じる軽い段階でも気軽に利用してかまわず、必要に応じて行政への申告先や民事手続きへのつなぎ方も教えてもらえます。
公取・中企庁・厚労省への違反申出
発注事業者の違反が明確で、行政から指導や勧告を働きかけたい場合は、所管官庁に違反事実を申し出る方法があります。
取引条件の明示・60日以内支払い・7つの禁止行為に関する違反は、公正取引委員会や中小企業庁が窓口です。
募集情報の的確表示・育介配慮・ハラスメント・30日前予告に関する違反は、厚生労働省が窓口になります。
いずれもオンラインの申出フォームが用意されていて、匿名性は限定的ですが、申告したことを理由とする不利益取扱いは法律で明確に禁じられているため、必要なときには使ってよい制度です。
どこに申告すべきか判断がつかない場合は、フリーランス・トラブル110番に先に相談すれば、適切な窓口を案内してもらえます。
弁護士・行政書士に相談するタイミング
被害額が大きい場合や、すでに発注事業者との関係が破綻している場合は、早めに弁護士や行政書士などの専門家に相談する選択肢を検討しましょう。
民事訴訟・支払督促・少額訴訟・調停など、状況に応じた手続きを案内してもらえます。
初回相談無料の弁護士事務所もあり、無料の法テラスを利用すれば収入条件に応じて費用の立替制度も使えます。
やみくもに自分で動くより、専門家に早めに見立てを取ったほうが結果的に時間とお金の節約になるケースが多いです。
2026年1月施行の改正下請法(取適法)との関係
フリーランス新法と並行して、2026年(令和8年)1月1日には、改正下請法である「取適法」が施行されます。
両法はカバー範囲が重なる部分もあるため、関係を整理しておきましょう。
取適法(中小受託取引適正化法)とは
取適法は、従来の下請法を改正・改名した法律で、正式名称は「中小受託取引適正化法」です。
「下請」という用語が実態に合わなくなってきたことや、対象範囲の拡大に合わせて、名称と中身が見直されました。
資本金基準に加えて従業員基準(製造委託等は300人、役務提供委託等は100人)が追加され、対象となる取引の範囲が広がっています。
支払いルールの強化(手形払い禁止など)
取適法で強化される主なポイントは、支払い手段と期日のルールです。
具体的には、手形による支払いが原則禁止になり、銀行振込などの現金等価の支払い手段が求められます。
支払期日についても、給付の受領日から60日以内のできる限り短い期間で設定するルールが明確化されます。
加えて、「協議に応じない一方的な代金決定」も新たに禁止行為として位置付けられる予定です。
フリーランス新法との重なりと使い分け
フリーランス新法と取適法は、適用される取引や事業者の範囲が異なります。
ざっくり整理すると、フリーランス新法は「個人事業主や一人法人」を保護する法律で、業種を問わず広く適用されます。
一方の取適法は、製造委託や役務提供など特定の取引類型を対象に、資本金や従業員規模で発注側を絞り込んだ枠組みです。
両法の対象になる取引では、より有利なルールが適用される可能性があるため、トラブル時には専門家に「どちらの法律で進めるべきか」を確認するのが安全です。
フリーランスとして覚えておきたいのは、「2024年11月のフリーランス新法施行と、2026年1月の取適法施行で、契約・支払いの環境はこの数年で大きく変わった」という事実です。
フリーランス新法でつまずきやすいポイント
フリーランス新法の解説を読んでいて、判断に迷いやすい論点を整理しておきます。
実際に契約や相談を進める前に、ここで一度確認しておくと安心です。
業務委託でなく雇用に近い案件はどう扱われるのか
業務委託という建前でも、実態が会社員と変わらない指揮命令を受けているケースでは、フリーランス新法ではなく労働基準法など労働関連法の保護対象になり得ます。
いわゆる「偽装フリーランス」「偽装請負」と呼ばれる状態で、勤務時間や仕事の進め方を細かく指示されているなら、労働者性が認められる可能性があります。
判断は個別の事情を踏まえる必要があるため、心当たりがあれば労働基準監督署やフリーランス・トラブル110番に相談してみるとよいでしょう。
フリーランスと業務委託・雇用との違いはフリーランスと業務委託は何が違う?契約・税金・新法までやさしく解説で詳しく整理しています。
個人客(BtoC)からの依頼にも適用されるのか
フリーランス新法が適用されるのは、原則として「事業者間取引」つまりBtoB取引です。
一般消費者から直接依頼を受ける場合(BtoC取引)や、友人同士の個人間の取引は対象外になります。
ただし、BtoC取引であっても、消費者契約法や民法など他の法律で守られる場面はあるので、トラブル時は弁護士に相談する価値があります。
発注書なしで仕事を始めてしまった場合はどう動くのか
実際の現場では、発注書なしで口頭やチャットで仕事が始まってしまうケースも少なくありません。
この場合、発注事業者側はフリーランス新法の取引条件明示義務に違反している状態です。
まずは「条件をメールにまとめておきたいので、業務内容・報酬額・支払期日・納期を文字でいただけますか」と依頼し、相手の返信メールを記録として残しておきましょう。
どうしても応じてもらえない場合は、フリーランス・トラブル110番に相談すれば対応方針を一緒に考えてもらえます。
法人化していてもフリーランス新法の保護を受けられるのか
フリーランス新法の保護対象は、個人事業主だけではありません。
代表者以外に役員がおらず、従業員も雇っていない一人法人であれば、「特定受託事業者」として保護の対象に含まれます。
マイクロ法人を設立して節税している方や、業務委託案件を法人名義で受けている方も、要件を満たせばフリーランス新法の枠組みで守られます。
ただし、役員を複数置いている法人や、従業員を雇用している法人は対象外になるため、自社の構成を改めて確認しておきましょう。
ここがポイント
- 実態が雇用に近い案件は労働関連法の対象になり得る。違和感があれば早めに相談
- BtoC取引や個人間取引はフリーランス新法の対象外。消費者契約法など別の法律で対応
- 発注書なしで仕事が始まった場合は、まず条件をメールでまとめてもらう
- 一人法人もフリーランス新法の保護対象。マイクロ法人にも同じルールが適用される
まとめ
フリーランス新法は、個人事業主や一人法人として働く人にとって、報酬未払いや契約トラブルから身を守るための重要な後ろ盾になります。
発注事業者には書面交付・60日以内支払い・募集情報の的確表示・育児介護配慮・ハラスメント対策・30日前予告・7つの禁止行為遵守という、計7つの義務が課されています。
違反があれば公取・中企庁・厚労省の段階的な行政処分を経て、最終的には50万円以下の罰金や社名公表につながります。
ただし、法律が整備されていても、最終的に自分を守るのは契約前のチェックと取引記録の積み重ねです。
受注前の5項目チェック・テキストでのやり取り・契約書テンプレートの活用を習慣にして、トラブルが起きにくい環境を自分で整えていきましょう。
万が一トラブルに直面したら、フリーランス・トラブル110番(0120-532-110)や所管官庁への申出など、用意されている公的な相談先を遠慮なく使ってかまいません。
法律を味方につけて、安心して長く続けられる働き方を目指していきましょう。